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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)6264号 判決 1963年2月04日

判   決

船橋市前原町三丁目七五七番地

原告

阿部道枝

右訴訟代理人弁護士

坂本英一郎

東京都中央区月島通六丁目八番地

被告

株式会社富士産業商会

右代表者代表取締役

日野月末弘

右訴訟代理人弁護士

田中正司

右当事者間の損害賠償事件についてつぎのとおり判決する。

主文

1  被告は、原告に対し二九七、五九〇円およびこれに対する昭和三七年九月八日以限右支払ずみにいたるまでの年五分の割合の金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  この判決は、第一項に限り、仮りに執行することができる。

事実

原告訴訟代理人は「1被告は、原告に対し金三〇万円およびこれに対する昭和三七年九月八日以降右支払ずみにいたるまでの年五分の割合の金員を支払え。2訴訟費用は被告の負担とする。」との判決および仮執行の宣言を求め、請求原因としてつぎのとおり主張した。

一、原告は、昭和三七年一月二六日千葉県市川市鬼高町四四六番地の四京葉有料道路料金徴収所において原告の夫阿部隆三の運転する自動車に同乗しているところを後方から訴外山本勝年が運転する被告会社使用のいすず六トン積トラツク(一―す―七五三二号)に追突され、脛部、背部および腰部捻挫、脳脊髄震盪症、第三胸椎右横突起脱臼ならびに第四胸椎左横突起脱臼の傷害をうけた。

二、而して、(一)原告は右傷害を治療のために治療費二九、八〇二円と病院へ通うための交通費二、四〇〇円の合計三二、二〇二円との支出を余儀なくされて同額の損害をうけた。

(二)、また、原告は、右治療のため約三カ月間にわたつて肉体的精神的苦痛をうけ、電気器具商を営む夫に協力することができず、三人の子供の母として養育に従うことができなかつたことによつてもまた多大の精神的苦痛をうけた。これらの苦痛を慰すに足る被告が支払うべき慰藉料額は金五〇万円をもつて相当とする。

三、訴外山本の惹き起した第一項の事故は、同訴外人が被告の業務執行のために自動車運転中に生じたものであるから、被告は自動車損害賠償保障法三条の規定によつて原告に対し前項(一)、(三)の損害の賠償をすべき義務を負うものである。

四、よつて、原告は、被告に対し第三項(一)の損害金三二、二〇二円と(二)の慰藉料のうち二六七、七九八円の合計三〇万円およびこれに対する訴状送達の翌日たる昭和三七年九月八日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める。

五、本件事故は、訴外山本勝年がその自動車運転中前方注視を怠つたために生じたのである。即ち被告車の助手席には訴外菅原信吾が同乗していたが、事故現場たる料金徴収所に近付いたにもかかわらず、同人が居眠をしていたので、訴外山本において料金支払をさせるため起そうとした瞬間前方注視を怠り、操縦を誤つてこの事故となつたのである。この点の被告の主張は否認する。

被告訴訟代理人は、「1原告の請求を棄却する。2訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、つぎのとおり主張した。

一、請求原因第一項のうち追突事故の発生は認めるが、原告がその主張のとおりの傷害をうけたことおよび第二項(一)の損害の発生は否認する。第二項(二)のうち原告がその主張のとおり苦痛をうけたことは知らない、慰藉料として原告主張の額が相当であることは否認する。第三項中訴外山本が被告会社の業務に従事中に本件事故が起きたものであることは認めるが、訴外山本は注意義務を怠つたものでないから、被告に損害賠償義務ありとする原告の主張は否認する。

二、原告が本件事故によつてうけた傷害は、軽微な腰部打撲症にすぎない。原告は嘗て自宅の階段からおち、第四腰椎圧痛及び筋肉つつぱり等の治療を昭和三五年六月頃から同年一〇月頃の間にうけたことがあるので、この既往症をこじつけて請求原因第一項の傷害を主張しているのである。

三、よつて、原告の請求は理由がない立証関係≪省略≫

理由

一、請求原因第一項のうち追突事故が原告主張のとおり発生したことは当事者間に争なく、右事故によつて、原告がその主張のとおりの傷害をうけたことは、(証拠―省略)を綜合して認めることができる。被告は、右傷害は既往症のこじつけである旨主張するけれども、原告の供述および該供述によつて成立を認める甲第五号証の一、二によれば、昭和三四年か昭和三五年頃階段から落ちてうけた腰部捻挫の傷害は、受傷の当時虎の門病院で治療をうけ、再発して昭和三六年一月から三月にかけて治療し、全治したことが認められる。右認定をくつがえすに足る証拠は存在しないが、たとい右認定を相当ならずとするも、被告の主張を認めるに足る証拠はない。

二、そして、(一)原告本人の供述及び該供述によつて成立を認める甲第七号証ないし第二五号証を合せ考えれば、右傷害を治療するため原告は、(1)市川共立病院(市川市北方町二の一〇二医師滝沢桂太郎)に対し昭和三七年一月三〇日診療費として金一九五円を支払い、(2)虎の門病院(港区赤坂葵町一)に対し同年二月初頃治療費として金一、三一七円を支払い(3)田中医院(港区西久保巴町六五医師田中正三)に対し同年五月二九日治療費として金七、一〇〇円を支払い、(4)田中接骨院(千葉県習志野市津田沼三丁目一一八七番地柔道整復師田中範人)に対し昭和三七年六月一日治療費として金一〇、一〇〇円を支払い、(6)堀越整復院(港区三田四丁目三〇)に対し同年六月二二日治療費として金九〇〇円を支払い、(6)鎮痛剤サリトン、シロン、アクロマイセチン、湿布用品入手のため代金九、一七〇円を支払い、合計二九、七九二円相当の損害をうけたことをみとめることができ、この認定に反する証拠はない。(原告が損害金の合計を二九、八〇二円とするのは誤算と認められ、理由がない。)つぎに通院交通費について、原告本人は、千葉県船橋市前原町三丁目七五七番地の自宅から前記各病院、医院、接骨院、整復院等に通院した旨供述するけれども、該供述によつて認めることができるように、その通院はすべて夫の運転する自家用車によつたものであるから、通院による損害がいくらか生じたとしてその損害額が原告主張のとおりであることはこれを認めるに足る資料がないとするの外はない。

(二)  慰藉料について判断するに、原告がその主張のような肉体的精神的苦痛をうけたことは証人阿部隆三の証言及び原告の供述によつてこれを認めることができる。この事実に後記認定の事故発生の原因たる被告車の運転手の過失を参酌すれば、右苦痛に対する慰藉料の額は金三〇万円をもつて相当と考える。

三、本件事故が被告会社の業務のためにする自動車運転中に訴外山本の惹起したものであることは、証人山本勝年の証言によつてこれを認めるに十分である。従つて、被告は格別の事情のない限り、自動車損害賠償法三条の規定によつて原告に対し前項認定の損害を賠償すべき義務あるものといわなければならない。被告は本件事故が被告山本の過失であることを争うけれども、証人山本勝年の証言によれば、本件事故は原告主張のとおり助手席に同乗していた菅原信吾の居眠りを起そうとして追突したため生じたものであることが認められ、そうであつてみれば訴外山本の過失という外ないから、該主張は採用することができない。しかもこの主張だけでは被告は免責されえないこと前記自動車損害賠償保障法三条の規定に照し明かである。

四、よつて原告の請求は第二項認定の損害金二九、七九二円と慰藉料のうち本訴で請求する二六七、七九八円の合計二九七、五九〇円及びこれに対する記録上明かな訴状送達の翌日たる昭和三七年九月八日以降右支払ずみにいたるまでの民法所定の年五分の遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容し、その余を失当として棄却し、訴訟費用につき民訴九二条の規定を、仮執行の宣言につき同一九六条一項の規定を適用して主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二七部

裁判官 小 川 善 吉

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